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クロスボーダーM&Aの進め方を国際弁護士が徹底解説

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クロスボーダーM&Aの進め方を国際弁護士が徹底解説

市場拡大を見込めたり、同じ業界の仕事の幅を広げたりするM&A。一から事業を立ち上げるよりも短期間で成果を出せる効果的な方法です。

この記事では、海外企業とのM&AであるクロスボーダーM&Aについて、進め方や事例を解説いたします。

クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは、譲渡企業(売り手)、譲受企業(買い手)のいずれかが海外企業であるM&Aです。譲渡企業が日本企業、譲受企業が海外企業の場合Out-In型といい、反対をIn-Out型といいます。この他、資本提携など買収の有無に関わらず広い意味で使われることもあります。

クロスボーダー M&Aのメリット

一つ目は海外企業とのシナジー(相乗効果)が期待できることです。

関連する企業ならビジネスの幅が広げられ、競合する企業ならビジネスの規模を拡大できます。

二つ目は企業文化が豊かになることです。

多種多様なバックボーンを抱えた社員同士のシナジーにより、斬新なアイデアが生まれたり新しいイノベーションが生まれたりすることがあります。

クロスボーダー M&Aのデメリット

一つ目はPMIが難しいことです。

PMIとはPost Manager Integration=合併後の企業統合のことです。クロスボーダーM&Aでは、企業文化や業界内でのポジションに加えて言語、宗教や商習慣、それに法令が異なるため、通常のM&Aより難しくなります。

二つ目は社内システムの統合が難しいことです。

海外企業では使用しているシステムや、システム管理を委託する業者が異なる場合が多いでしょう。これもPMIと同様に海外ならではの事情が関係してきます。

クロスボーダーM&Aの進め方

STEP1 買収候補企業の選定

買収企業の見つけ方1. 自社事業の川上市場または川下市場にいる会社の買収

一つ目は同じ業界で業務の幅を広げることです。

業界内で自社に不足する事業、将来的に伸ばしたい事業を検討するとよいでしょう。同じ業界であれば、合併後のシナジーも期待できます。

買収企業の見つけ方2. 同業者(競合他社)の買収

二つ目は同じ業種で事業を拡大することです。

比較的買収しやすい自社よりシェアの低い企業で、合併すればシェア上位を狙える企業がよいでしょう。

買収企業の見つけ方3. 自社で行っていない事業を営む会社の買収

三つ目は事業を多角化することです。

異業種といっても全く関係のない業種ではなく、親和性の高い業種の企業を買収することで、多角化とシナジーのバランスがよくなると期待できます。

いずれの考え方においてもM&Aの後、自社グループの商品を販売できる市場余地があることを確認しましょう。

STEP2 買収候補企業のデューデリジェンス

デューデリジェンスとは、譲受企業が譲渡企業に対して行う買収審査のことです。

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスとは、現地の市場規模やシェア、そして市場の将来性などを審査することです。もちろんリスクやシナジーについても審査します。

財務デューデリジェンス

経営の健全性を審査するのが財務デューデリジェンスです。負債(特に短期負債)が極端に多くないか?棚卸資産(在庫)が多くないか?などの項目を審査します。念のため簿外債務がないか確認することも大切です。

法務デューデリジェンス

買収後も安定して事業を継続できるか審査します。現地の文化によってはストライキが頻発したり、企業内外で紛争を抱えていたりする場合もあります。

STEP3 株価算定、買収価格の交渉

デューデリジェンスをもとに買収価格を決めます。上場企業なら市場価格から株価を算定し、未上場の場合は業績や直近の株式売買時の株価などを参考にします。また、株価をもとに買収価格を算定します。

STEP4 契約手続き

契約の内容と注意点を解説

クロスボーダーM&Aの場合、契約条件は基本的に現地の法令に従います。そのため、契約書の内容もそれに準拠したものにしましょう。アメリカの場合は国の法令の他に州の法令があったり、EU諸国の場合は国の法令の他にEUの法令があったりします。

また、契約書にはデューデリジェンスで洗い出されたリスクに対する表明保証条項を記載することも大切です。表明保証条項とは、契約書に記載の内容が事実であることを譲渡企業に表明(誓約)してもらう条項です。

クロスボーダーM&Aの事例

事例1 日本のIT企業が、アジアのITプラットフォーム事業者を買収

ジョブマッチングのプラットフォームを運営しているインド企業を、日本企業が買収した例を説明します。

インド国内で展開されていた、IT系の大学生とインド国内のIT企業のジョブマッチングを行うプラットフォーム。もともとインドの市場で信頼されていたこともあり、買収価格はやや高かったものの、それ以上に、インドの優秀なITエンジニアを日本企業に人材紹介する事業展開を行い始め、事業シナジーを生んでいるようです。

PMIにおいてもインドの商習慣や宗教行事を大切にして、インドの文化を受け入れたようです。

事例2 アメリカの工業用部品製造メーカーが、日本の同業者を買収

次に説明するのはアメリカで電気自動車ベンチャーが、日本の自動車部品メーカーを買収した例です。電気自動車といっても従来のガソリン車と共通する部品が多いため、品質面で信頼のある日本企業を買収したようです。

日本企業側も、創業者が高齢化する中、電気自動車が今後広まることが明らかな自動車業界での生き残りをかけて、アメリカ企業の買収を受け入れることを決めました。

かつてアメリカでは年功序列や終身雇用が当然だった時代もありました。日本に年功序列や終身雇用の制度が導入されたのは、実はアメリカにならった部分があるのです。

そのため、両制度のメリットや日本人の心情を理解しつつも企業としての市場価値を高められるよう、絶妙なバランスを取りながらPMIを行ったとのことです。

譲受企業は高品質な部品を生産できるようになり、譲渡企業はアメリカの経営方針を取り入れ、より効率的な経営を実現できました。

事例3 アメリカのIT企業が、日本のSaaSサービス開発業者を買収

次はアメリカのIT企業が、日本でECサイトを運営するSaaSを買収した例です。

アメリカでは日常の一部になっていても、日本ではまだまだ認知度が低い商品があります。

譲受企業であるアメリカのIT企業は、商品の良さやアメリカで売れた理由を蓄積しています。また、譲受企業である日本のECサイト運営企業は、日本人の消費者感情を理解しています。

両社のシナジーにより、遠く海の向こうで開発された商品が日本国内の市場に広がったのです。

クロスボーダーM&AならGSJにお任せ

クロスボーダーM&Aについてお困りのことがあれば、私たちGlocal Solutions Japan(GSJ)にお任せください。計画の早い段階でご相談いただいた方が効果的です。

次のような強みを活かしてサポートいたします。

英語対応が可能

書類の翻訳だけでなく、商談の場での通訳にも対応。しかも、通訳ではただ日本語を英語に訳すだけでなく、相手企業との最終的な合意形成を意識して、円滑なコミュニケーションを手助けします。

海外の弁護士ネットワーク

弊社では海外の弁護士ネットワークにより、精度の高い生の情報が手に入ります。インターネットで調べることも大切ですが、ここぞというときに役に立つ現地の情報が必要なときは弊社にお任せください。

専門家集団による幅広いサポート

弊社には販路拡大、製品規格、知財戦略などの専門家が在籍しており、貴社のクロスボーダーM&Aを徹底的にサポートいたします。未来を決める決断は貴社にしかできません。ぜひ、貴社の発展のために弊社の経験とノウハウをご活用ください。

クロスボーダーM&Aでお困りのことがありましたら、こちらまでお気軽にご相談ください。

GSJ認定専門家

■ この記事の執筆者認定専⾨家 中村 優紀

■ プロフィール概要 所属(肩書):中村法律事務所 代表弁護⼠
専門領域:法務コンサルタント
資格など:弁護士(日本・ニューヨーク州)、独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、国際弁護士ネットワークWILL日本代表、三井不動産株式会社ワークスタイリング テーマエキスパート(海外進出サポート)、日弁連中小企業海外展開支援事業担当弁護士

■ プロフィール詳細 仙台市生まれの国際弁護士。国際コンプライアンス案件を専門的に扱う矢吹法律事務所、米国大手法律事務所Gibson, Dunn & Crutcher LLPサンフランシスコオフィスでの執務後、2018年に中村法律事務所を1人で独立開業。3年半で総勢14名の組織に拡大。12年間の弁護士経験をもとに、日系企業の海外進出を数多くサポートしている。海外への輸出に係る現地法規制調査、万博出展に係る表示規制アドバイス、海外販売代理店契約、クロスボーダーM&A、海外現地法人設立といった取引案件の他、海外企業に対する債権回収、JV解消に係る株式買取交渉といった紛争案件も代理。65か国260名以上の弁護士が在籍する国際弁護士ネットワークWILLに属し、グローバルで法務ニーズに対応している。2022年1月、マンハッタンにてニューヨークオフィスを設立。