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訪日インバウンド需要を捉える店舗×デジタルマーケティング戦略

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訪日インバウンド需要を捉える店舗×デジタルマーケティング戦略

コロナ禍を経て経済活動が活発になってきた昨今、円安の影響もあり訪日インバウンドの方が日本国内で旅行やショッピングを楽しんでいます。本記事では訪日インバウンドの方をターゲットにした、オンライン&オフラインのデジタルマーケティング戦略について解説します。

訪日インバウンドの回復がビジネスに再びチャンスをもたらす

コロナ後、急回復中の訪日外国人旅行者(国別動向、注目マーケットなど)

日本政府観光局(JNTO)のデータによると、2024年の訪日外国人観光客数は3,686万人に達し、2019年の3,188万人を上回りました。特に注目すべきは、コロナ禍で大きく減少していた中国からの観光客数が段階的に戻り始めていることです。

旅行者は従来からの中国、韓国、台湾に加え、アメリカやオーストラリアなど、世界各地からやってきます。また、長期滞在型観光も回復傾向にあることも特徴的です。

これらの動向は、単なる数の回復にとどまらず、消費行動や旅行スタイルにも変化をもたらしており、新たなビジネスチャンスを創出しています。

観光地だけでなく、“都市型”や“地域密着型”店舗にもチャンスあり

従来、インバウンド需要の恩恵を受けるのは有名観光地や大型商業施設が中心でした。しかし、現在は観光客の行動パターンが多様化し、ガイドブックにあまり載っていない地域の個人商店や住宅街のカフェ、地方の小さな工房なども、SNSやGoogle マップを通じて発見されるようになりました。

特に若い世代の観光客は「リアルな日本」を体験したいという意識が強く、大型チェーン店よりも地域に根ざした店舗を選ぶ傾向が強まっています。これは、地方の中小企業や個人経営店にとって大きなチャンスです。

「おもてなし」だけでは終わらない、今求められる次の一手とは?

「おもてなし文化」は確かに日本ならではですが、これは日本国内に共通するもので、丁寧な接客をするだけでは、競合店舗との差別化は図れません。現在求められているのは、デジタル技術を活用した「おもてなしプラスα」となり得る新しい顧客体験の創出です。

例えば、多言語対応のQRコードメニューや、商品の背景ストーリーを伝える動画コンテンツ、さらには来店後もSNSでつながり続ける仕組みづくりなどが挙げられます。重要なのは、「またあのお店に行きたい」や「帰国後もオンラインやECであのお店から商品を買いたい」と思ってもらうことです。これにより持続可能なビジネス成長が実現できます。

訪日外国人の購買行動の変化と傾向

旅行者の目的が「体験」重視へ:モノ消費からコト消費+ストーリーへ

コロナ禍を経て、訪日インバウンドの方の購買動機は大きく変化しています。従来の「安くて良いものを大量に買う」というモノ消費中心の行動から、「日本でしかできない体験」を重視するコト消費へとシフトしています。特に注目すべきは、体験とともにその背景にある「ストーリー」への関心の高まりです。

例えば、和菓子を購入する際も、その菓子に込められた季節感や職人の技術、歴史的背景などを知ろうとするニーズが強くなっています。SNSでの情報発信が当たり前になった現在、購入したモノの背景やストーリーを知り、より豊かな体験にしたいという欲求が強まっています。これがビジネスチャンスにつながります。

商品を「WebやSNSで見つけて→現地で買う」時代に

訪日インバウンドの方の購買プロセスは、来日前からすでに始まっています。Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNSで日本の商品や店舗の情報を調べ「現地で必ず買いたいモノ」を決めてから来日するケースが増えています。特に若い世代では、インフルエンサーのレビューや現地での投稿動画を参考にする傾向があります。

また、Google マップの口コミや評価を事前にチェックしてから訪問するのもよくあることです。これは店舗側にとって、オンラインでの情報発信やブランディングが売上に大きく寄与する時代になったことを意味しています。

よく売れるカテゴリと理由

現在、訪日インバウンドの方に特に人気が高いのは、持ち帰りやすく日本らしさを感じられる商品です。食品では日本茶、抹茶スイーツ、調味料類が根強い人気を保っており、特に個包装されたものや賞味期限の長いものが好まれています。和雑貨では手ぬぐいや箸置きなどの実用性とデザイン性を兼ね備えたアイテムが人気です。

コスメティック分野では、日本製の品質の高さと独特な商品コンセプトが評価され、特にスキンケア商品や限定パッケージ商品の需要が高まっています。近年特に注目されているのが手作り商品で、陶芸品、木工品、織物など、作り手の顔が見える「一点物」(unique item )への関心が急速に高まっています。

これらの商品が人気なのは、「日本でしか買えない特別感」と「SNS映えする見た目」を兼ね備えているからです。

店舗でできる「インバウンド対応」の基本と進化

多言語対応(POP・接客・説明書)、QRコードや翻訳アプリの活用

従来の多言語対応は、英語・中国語・韓国語の紙製POPを作成することが主流でしたが、現在はより効率的な手法が使えます。QRコードを活用した多言語メニューや商品説明は、スマートフォンで簡単にアクセスでき、更新も簡単です。また、Google 翻訳やVoiceTra、POCKETALK(ポケトーク)などの翻訳アプリによって対応言語数を大幅に増やせます。

重要なのは、文化的背景を考慮して丁寧に説明をすることです。例えば、日本酒の説明では、どのような料理と合わせるべきか、あるいは適切な飲み方なども一緒に伝えると、訪日インバウンドの方の理解度と満足度を高められます。

簡単な挨拶や感謝の言葉を、英語だけでなく主要な言語でできるようにしておくことも大切です。段階的にコミュニケーション能力を向上させることで会話がスムーズになるだけでなく、購買意欲の向上にもつながります。訪日インバウンドの方からすると、自国の言葉で迎え入れられるのは嬉しいものです。

外国人が使いやすいキャッシュレス決済の導入

キャッシュレス決済の導入は、もはやインバウンド対応の必須要件となっています。特に中国系観光客にとって、Alipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)は日常的な決済手段です。中国では現金を使う習慣が少なくなっており、キャッシュレス決済非対応の店舗は大きな機会損失になる可能性があります。

韓国からの観光客にはKakao Pay(카카오페이)やNaver Pay(네이버페이)、東南アジア諸国からの観光客にはGrabPayなど、各国・地域で普及している決済サービスへの対応も重要です。

導入時には次のようなことに注意し、最適なサービスを選択しなければなりません。

  • 決済手数料
  • 入金サイクル
  • サポート体制

決済端末の操作方法をスタッフが習熟し、トラブル時の対応手順を明確にしておくことで、スムーズに決済してもらえます。さらに、各決済サービスのロゴやQRコードをわかりやすく表示することで、訪日インバウンドの方が安心して買い物を楽しめます。

日本以上にキャッシュレス決済が普及している国は多く、現金のみしか対応していない店舗は「それだけで買い物を断念される可能性がある」という感覚を理解しましょう。

Google マップやTripadvisorなど、訪日前情報収集チャネルへの最適化

訪日インバウンドの方の多くは、来日前にGoogle マップやTripadvisorで店舗情報を収集し、訪問先を決めています。そのため、これらのサイトに登録する(表示させる)情報を充実させることが重要です。特に営業時間、連絡先、写真、メニュー情報を常に最新の状態に保つ必要があります。

料理や商品の魅力的な写真、店内の雰囲気が伝わる写真を定期的に更新することで、来店意欲を高められます。また、良いレビューには感謝の気持ちを返信し、批判的なレビューには改善への取り組み姿勢を返信することが大切です。返信は一見投稿者との1 on 1のコミュニケーションに見えるかもしれませんが、そのやりとりを見て新規の訪日インバウンドの方が来店する可能性もあります。

これらの施策で来日前の段階から顧客との接点を作ることにより、来店確率の大幅な向上が期待できます。

店舗体験とオンライン認知を循環させてファン化する仕組みと事例

店頭体験を“一期一会”で終わらせない導線設計

従来のインバウンド対応では、店頭での接客や販売で完結してしまうケースが多く見られましたが、ビジネス成功のためには帰国後も続く関係性の構築が不可欠です。来店時にSNSフォローやLINE公式アカウントの登録をしてもらい、定期的に新商品情報や季節のお知らせを配信することで、継続的な関係を構築しやすくなります。

特に効果的なのは、購入商品の使い方動画や、商品に関連する日本文化の紹介コンテンツを多言語で発信することです。また、メールマガジンでは特別割引クーポンや限定商品の先行案内を行い、リピート購入を促進します。

訪日前から認知を高める“逆ルート”施策

従来の「来店→認知→購入」という流れとは逆に、「認知→憧れ→来店→購入」というルートを構築することで、より確実な売上とファン化を実現できます。海外のSNSプラットフォームやインフルエンサーマーケティングを活用し、商品の魅力やブランドストーリーを事前に発信することが重要です。

例えば、職人の技術や商品の製造過程を紹介する動画コンテンツを現地の言語で制作し、Weibo(微博)、Xiaohongshu(小紅書)、InstagramやTikTokで拡散させます。現地のECモールに出店して商品を販売しながら「日本の店舗で実際に体験できます」と伝えることも効果的です。

こうした施策により、店舗を単なる小売店ではなく「憧れの聖地」(=ファン化)として位置づけることができます。来店前から商品やブランドへの理解を深めた訪日インバウンドの方は、比較的高額な商品を購入する可能性が高くなります。また、帰国後もECサイトなどを通じて購入する可能性にも期待できます。

アパレルブランドの事例紹介

監修者が支援したアパレルブランドでは、店頭販売とECサイトを連携させたO2O(Online to Offline)戦略で大きな成果を挙げることができました。店頭で貯めたポイントをオンラインショップでも利用できるようにし、逆にオンラインで貯めたポイントを店頭でも使える仕組みを構築することで、顧客の利便性を大幅に向上させることに成功しました。

また、お客様の許可を得たうえで来店時の写真をInstagramやFacebookで紹介し、着用している商品の詳細情報とともに投稿しています。そうすることで、自然な商品PRとコミュニティ感の醸成を実現しています。

さらに、ウェブサイト上で日替わりや週替わりのキーワードを掲載し、店頭でそのキーワードを言った顧客に限定ノベルティをプレゼントする施策を実施しました。これにより、オンラインからオフラインへの送客が促進され、訪日インバウンドの方のリピート来店率が向上し、SNSでの口コミ拡散も大幅な増加を実現できました。

まとめ

本記事では、訪日インバウンドの方に向けたマーケティング戦略について解説しました。日本は人口が減る一方で、円安傾向の大幅な改善も少なくとも短期的には期待できません。訪日インバウンドの方に満足してもらい、ECサイトでの購入や次回の来店につなげることで収益性の確保が期待できます。

GSJ認定専門家

■ この記事の執筆者認定専門家 稲垣 正幸

■ プロフィール概要 専門領域:マーケティングデザイン、EC構築運用
名前:稲垣 正幸(いながき まさゆき)
所属(肩書):株式会社ソノイチ 代表取締役

■ プロフィール詳細 インターネット黎明期からネット通販事業を始め、25年以上の経験があり、海外BtoC向けのアパレルのECサイトでは月商2億円を超える実績を達成。第二創業期を迎えるものづくり企業や、半世紀以上の歴史を持つ老舗企業との協業を得意としており、サイト構築だけでなく、商品の開発、販売、物流まで、全てのプロセスを実践、トライアンドエラーから培った現場のノウハウが私の強みです。
全ては実践から得た結果に基づいており、オリジナリティ、背景のある商材を海外展開するにはストーリー作成やブランディングが必須と言えます。
そのために積極的に現地取材を行い、作り手の想いを丁寧に汲み取り、エンドユーザーに届けることを大切にしています。貴社の素晴らしい商品を世界中へ届け、共に成功を目指したいと考えています。