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早稲田大学講義シリーズ_vol.3
「海外展開に挑んだ2社のグローカル企業」

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早稲田大学講義シリーズ_vol.3
「海外展開に挑んだ2社のグローカル企業」

By GSJ事務局

2023年4月26日、早稲田大学ビジネススクールの講座「中小企業のグローバル戦略」にて、「グローバルとローカルのマッチング戦略と課題」という内容で、GSJ専門家と専門家が支援する企業様により、具体的な事例紹介をさせていただきました。

今回は、本セミナーにおける4名の講師による海外展開のさまざまな手法や手順、事例などをご紹介します。ここでの内容を参考に、ぜひ自社の海外展開について検討してみてください。

講師③ 渋谷レックス株式会社 取締役専務 兼 海外事業部部長 渋谷 崇司様

会社紹介・事業紹介

渋谷レックスは、福島県福島市に本社をおく従業員53名の中小企業で、菓子の卸売業をやっている会社です。1967年に設立し、現在67期目を迎えています。

事業全体としては、卸売業を基幹事業としながら、経営資源を利用して小売業や商品企画開発、EC事業などさまざまな新事業を進めてきました。海外事業に関しても、2014年に海外販路としての直接輸入を開始し、ベビー用食品や紙おむつといった製品を東アジアから東南アジア向けに輸出しています。

事例紹介

ここでは、実際に渋谷レックスが行った海外展開事例を進出先国別にいくつかご紹介します。

中国:ベビー用食品

2015年に中国向けベビー用食品ブランドを立ち上げ、あらゆる商品を輸出しています。

ベビー用食品は、本来「乳幼児規格適用食品」と呼ばれ、輸出や輸入を行う際には一般食品とは異なるカテゴリで取り扱われます。乳幼児規格適用食品の輸出は、現地側の手続きが非常に厳しく、輸出先によっては慎重な対応が求められるため、受け入れが難しい分野です。

そこで、渋谷レックスでは、本ブランドを展開する際に、中身を通常の製品で構成し、パッケージングのみをベビー向けにブランディングするという対応を行ってきました。製品開発自体は、日本国内でベビー向け商品を手がけているメーカーに依頼していますが、あえて乳幼児規格適用食品としないことで、輸出面での課題をクリアした形です。

展示会出展など、中国での地道なPR活動の結果、日本のベビーストアからも問い合わせをいただくようになり、現在では国内外含め1,500店舗で導入が進められています。

台湾:キャラクター商品

日本アニメのライセンスを持った台湾企業から、日本メーカーによる商品開発の依頼をいただきました。

マシュマロや卵ボーロといった食品にキャラクターをプリントすることで、ベビー向け商品として販売を行っています。プリントに関しては日本同様に現地側でのライセンス審査を受け、販売を行っている形です。メイドインジャパン商品の導入推進としても非常に良い事例になりました。

ベトナム:紙おむつ

ベトナム最大手のベビーストア企業と取り引きを行っており、日本の大手紙おむつメーカーの代理店として、紙おむつの流通を手がけています。また、自社でもOEMによる紙おむつの開発・輸出を行うなど、3社共同によるベトナム市場開拓を進めています。

香港:日本食品ストア

香港に12店舗を構える日本食品ストアにて、菓子類や酒類といった店内すべての商品の輸出・品揃えを行っています。SNSを通じた商品紹介など、精力的なPR活動も行われており、今後は20店舗まで事業を拡大予定です。

マレーシア:酒類

漢方薬や健康食品を販売するマレーシアの大手企業と取り引きする形で、酒類の輸出を行っています。マレーシアでは、輸出の際に政府登録に8ヶ月という時間を要するため、販売に至るまでには非常に長い準備期間が必要です。

渋谷レックスでは、クアラルンプールの国際空港の免税店に、初めて日本製のワインを並べるなど、新たな市場開拓に成功しています。また、養命酒とならび日本3大薬味酒と呼ばれている「陶陶酒」、「保命酒」の輸出においても専売契約として実績を作り上げています。

講師④ 川口精機株式会社 代表取締役社長 大澤宏典様

会社紹介・事業紹介

川口精機は、静岡県静岡市にてスクリュープレス脱水機の設計・製造を行っている機械メーカーです。1949年に創業し、現在74期目を迎えています。

もともとは船のエンジン修理や、射出成形機、汚泥脱水機といった専門機械の下請け・OEM製造を行っていた会社です。2008年のリーマンショックを機に、自社ブランドを立ち上げ、機械メーカーを目指すことで価格決定権のある事業を行っていく方針へシフトしました。

当時、実用化されずに社内の片隅で眠っていたスクリュープレス脱水機に目をつけ、「水分の多い食品の廃棄物を絞ることで、ゴミを削減する」というコンセプトのもと、新たなスクリュープレス脱水機の販売をスタートさせた形です。

事例紹介

ここでは、実際に川口精機が行った事業の事例をご紹介します。

廃棄物の飼料化|リサイクルシステムの確立

静岡市のあるもやしメーカーが、緑豆もやしの廃棄物処理に悩みを抱えていました。

川口精機のスクリュープレス脱水機導入を進めるなかで、絞った廃棄物が牛の飼料として再利用できることを発見します。また、牛の餌の栄養価はもやしの成分と非常によく似ており、なおかつ水分の少ない固形物として与える必要がありました。

これにより、廃棄物を絞るだけではなく、良質な飼料としてリサイクルできるという部分で、他のスクリュープレス脱水機メーカーとの差別化を図ることにも成功した形です。

スクリュープレス脱水機の海外展開

日本全国に約160台という大きな実績をつくったスクリュープレス脱水機ですが、同じように海外にも需要があるのではないかと考え、取り組みを開始しました。ゴミを絞るだけではなく、リサイクル可能なこのシステムを今後は積極的に海外へ広げていく方針です。

海外の販売実績としては、現在タイ、中国、アメリカの3ヶ国で実績があります。中国、アメリカに対しては、お客様からの特殊な要望が機械の性能と上手く合致して販売に至った経緯です。

タイでは、イタリア製のスクリュープレス脱水機を導入している果物の搾汁工場にて、搾汁効率が悪いというお問い合わせをいただきました。その後、川口精機のスクリュープレス脱水機を使用してみたところ、搾汁効率が飛躍的に向上し、排出される固形物やゴミも大きく減少するという好循環が生まれました。

環境に対する熱量は、現在はまだ日本ほど高くはありませんが、タイではこれから廃棄物への取り組みをスタートする予定です。日本で実績のある、この飼料化・リサイクルシステムに対して、その後も非常に高評価をいただき、販売実績へとつなげることに成功しました。

自社の強み|地域循環型の社会づくり

機械メーカーとしては、どうしても自社の機械の特徴や性能をアピールしがちです。日本も海外も共通しているのは、性能ではなく、その機械を導入することで実現する仕組み、リサイクルの部分に需要があるという点でした。これを自社の強みとして押し出し、海外事業をスタートさせた形です。

国内においても、地域循環型をテーマとした導入実績が増えています。茅ヶ崎市のビール工場では、麦芽の廃棄物を良質な飼料としてリサイクルできるこの仕組みに魅力を感じて、導入を決めていただきました。

あらゆる市場において、自分たちが自社の強みを考えるのではなく、お客様が評価してくれたものが最も信頼性のある自社の強みです。タイの事例においても、もしスクリュープレス脱水機の性能面だけをPRしていたら、おそらく今のような評価にはつながっていなかったはずです。