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【事例あり】海外事業立ち上げの進め方を専門家が解説

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【事例あり】海外事業立ち上げの進め方を専門家が解説

海外の成長市場に向けて、海外事業の立ち上げを検討されている中小企業が増えてきています。本記事では、海外進出の具体的な進め方がイメージできるよう、海外での事業立ち上げパターンと海外進出のメリット、進出の判断基準や手順、注意点について解説します。

海外での事業立ち上げパターン

海外で事業を立ち上げるパターンには現地法人の設立と現地委託生産、販売代理店との取引があります。

パターン1(現地法人の設立)

現地に生産拠点を設立し、現地で生産して製品を出荷する方法です。3つのパターンの中で最も投資額が高くなるため、事業を撤退した際の負債のリスクが最も大きいパターンです。リスクは高くなりますが、材料の現地調達による輸送コストの低減や現地人材の採用による人件費低減によって、製品の利益率が高いパターンでもあります。

パターン2(現地委託生産)

パターン1のように現地で自社の生産拠点を持つのではなく、既に現地にある別会社に生産を委託する方法です。パターン1に比べ投資額が抑えられますが、必要に応じて材料の調達や労働者の派遣を行う必要があります。また、技術提携を行う場合は守秘義務契約などの契約が必要になってきますので、契約に知見のある機関や専門家にアドバイスを求める必要があります。現地で生産したいがパターン1よりも生産ボリュームがそれほど多くない、投資額を抑えたいなどの場合に検討すると良いでしょう。

委託生産には以下2つの種類があります。

  • OEM(Original Equipment Manufacturer)
    委託側が設計開発した製品を受託側が生産する方式
  • ODM(Original Design Manufacturer)
    受託側が設計開発した製品に対して委託側のブランドで販売する方式

パターン3(販売代理店取引)

現地の販売代理店と契約して販売してもらう方法です。販売代理店は販売するだけではなく、在庫を持ってくれて、メンテナンスの実施や回収リスクを負う対応もしてくれます。現地に拠点を設立せず、材料の調達や人材の雇用も行わないため、3つの事業パターンの中で最もリスクが低い方法です。

また、販売代理店と取引しないで越境ECを利用する方法もあります。越境ECとは、日本から海外に向けて商品を販売するECサイトのことです。海外の保税区の倉庫で商品を管理しておき、注文が入ったらその倉庫から発送する保税区を活用した越境ECや、海外への代行業者に商品を買い取ってもらう代行販売型越境ECがあります。

海外で事業を立ち上げるメリット

海外で事業を立ち上げることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

販路拡大

海外進出によって、日本だけではなく海外にも販路を広げることができます。日本では人口減少の一途をたどっているため、コモディティ化した製品については人口の母数が少なくなる中で各社競合しながらシェアを拡大するのは難しい局面になっています。
一方で市場が発展している国に販売店との取引や顧客を持つことで販路拡大を見込めるだけではなく、供給先を増やすことによるリスク分散にもつながります。

コスト削減

海外で現地の人材を採用することで、日本よりも人件費を抑えることが可能です。また、日本で生産するときに輸入でないと調達できなかった材料や部品を、海外現地生産においては現地から直接調達できるようになると輸送費の低減につながります。コストは製造にかかるものだけではなく、日本より税制の安い国に拠点を構えることで税負担も抑えられます。

製品・サービスの専業化

製品やサービスが専業化できるということは、他社との差別化にもつながります。特に競合他社の少ないニッチな分野で専業化できるのは強みになります。海外に進出して商圏を広げることで、たとえ日本では需要がなかったとしても海外では需要があることに気づける場合があります。

海外で事業を立ち上げるリスク

海外で事業を立ち上げる際に考えられるリスクには次のようなものがあります。

現地市場での売り上げの減少

現地販売店との契約も決まり、売り上げを見込んでいたのに、急に取引を中断されることがあります。親会社の依頼で現地に製造拠点を設立したが、親会社での業績が不振になり取引量が少なくなったり、親会社が別の調達先を見つけ取引がなくなったりするリスクもあります。海外にかかわらず、急に案件がなくなるといったリスクは製造業において発生しうるケースであり、複数の販売店や顧客をもつなどのリスク分散が必要です。

輸出の低迷

海外の販売店に納めたり、越境ECを使う事業形態にとって、輸出の低迷は考えなければならないリスクです。輸出が低迷する理由としては、物流コストが上昇傾向にあることが挙げられます。物流コストが高くなると調達する側の負担が増えてしまうため、これを回避するために顧客側は現地調達に切り替えることがあります。

コストの増加

コスト低減のメリットを狙って海外進出したが、想定していたほどのメリットがない場合があります。例として、現地に製造拠点を設けて現地メーカーから材料の調達をする予定だったが、現地メーカーの品質が思うようにいかず、日本から輸入することになりコストが増加する、安いと思っていた現地スタッフの人件費が高騰し、コスト増加になってしまった、というリスクが考えられます。

事業立ち上げるべきかの判断基準

事業を立ち上げるかどうかの判断は、次の3つの基準にそって考えます。

海外に進出しないといけない理由が明確になっているか

事業立ち上げの判断として最も大切なのは、海外進出の目的が明確になっているかということです。本当に「今」海外に進出しないといけないのか、という問いに答えるためには、事前の調査が必要です。調査内容は主に次のような項目に当たります。

  • 業界
    進出先の市場規模や成長性
  • 競合
    競合他社の状況はどうか
    競合に対して差別化できる強みがあるか
  • 流通・インフラ
    問題なく輸送できる地域か
    輸送のルートや対応する業者は決まっているか
    食品の場合、温度維持できる設備があるか
  • ユーザー
    進出国ではユーザーはどのような製品・サービスを求めているか
    ユーザーはどのような使い方をするか
  • 法規制
    進出国でどのような規制があるか
  • 商流・パートナー
    商流や現地販売店などのパートナーは決まっているか
  • リスク
    想定するリスクを洗い出しているか

社内体制は万全か

海外に拠点を設立する場合は、現地での人材の確保やサプライヤと交渉するためのエージェントを探す必要があります。また、人材を確保した後もきちんと仕事ができるような教育制度を現地の人材向けに整えておく必要があります。

撤退シナリオが描けているか

海外進出にはリスクが伴いますので、最大のリスクである「撤退」を想定しておく必要があります。そしてどのような状況で撤退を判断するのか決めておき、撤退に関する計画を明確に作成しておくことが大切です。いきなり撤退をしようとすると、現地の従業員に受け入れてもらえなかったり、政府当局の認可が下りなかったりする必要があります。あらかじめ関係者に計画を提示しておくことで、いざというときに撤退がスムーズに検討できるでしょう。

海外での事業立ち上げの流れ

海外で事業を立ち上げるためには、次の5ステップを踏んでいくと良いでしょう。

(ステップ1)海外進出の目的の明確化と売り上げ目標の設定

海外進出といっても、事業拡大やコスト低減などさまざまな目的があります。同業他社が海外進出しているから、トレンドだからといった理由で進出を決めずに、事業戦略の中でどのような位置づけになっているかを明確にします。

例えば、以下のような問いに答えられるように、海外進出の目的と目標について明確に言語化しておく必要があります。

  • なぜ海外に進出しないといけないのか、日本国内だけではだめなのか?
  • 海外進出のリスクに対する対応策が検討されているか?
  • 社内で合意されるだけの十分な資料があるか?

目的が明確になったら、具体的な売り上げの数値目標を決めます。漠然したものではなく、可能であれば年度ごとの売り上げ目標や売り上げ目標達成のためのコスト低減などの施策についても目標を定めておきます。

(ステップ2)事前準備

進出国の検討

地域によって需要があるサービスや商品は異なります。自社の製品がどのような地域で求められるのかを調査した上で進出する国や地域を検討しましょう。各国のニュースのみならず、周辺国や世界のトレンドも把握しておきます。

事業立ち上げパターンの検討

事業立ち上げパターンとしては、まず進出先に拠点をもつかどうかを決める必要があります。拠点をもつ場合は現地での裁量で独立して営業活動や調達業務が行えるメリットがありますが、出資額が大きいという点がデメリットになります。一方、拠点をもたない製造委託や代理販売店取引、越境ECの方法は初期費用が抑えられるメリットがある反面、輸送コストの増加や技術流出といったリスクも考えられます。

現地調査

進出国を選定したら、対象国の市場状況や現地調査を行います。実際に現地に行って、国内で行った調査との整合と、競合他社の動きを確認します。

(ステップ3)必要経費を算出し、資金調達

海外進出に必要な経費を算出し、それに応じた資金の調達を行います。企業でキャッシュを用意したり融資によって調達したりするほか、国や専門機関から発行されている助成金や補助金に申請して必要経費を調達します。

(ステップ4)仮戦略の立案・仮説構築

事前調査をもとに、仮説を立て今後の計画を立てていきます。計画では拠点の設立や販売店との契約、人材の確保や教育、資金調達や製品開発の工程を引きます。計画の作成はジェトロのウェブサイトに計画表のサンプルがあるので、ダウンロードして参考にすると良いでしょう。

JETRO「計画表サンプル

(ステップ5)事業計画書の作成

ステップ4で計画を明確にした後は、事業計画書を作成しましょう。事業計画書を作成することでより具体的な施策が明確になり、関係者と共有して目的のベクトルを合わせることができます。事業計画書は補助金の申請に必要になるため、資金調達をしやすくするためにも、ぜひ作成しておきましょう。

事業立ち上げ時の注意点

事業立ち上げ時の注意点は次の3点です。

品質が確保できるとは限らない

日本では当たり前にやっている作業の中では、作業手順や基準書を作らないことがあったりします。しかし、当たり前の作業も、海外ではきちんと作業手順を作らなければ、思わぬところで不良品を発生させる原因になることもあります。現地の従業員の作業内容はもれなく作業基準を作成し、作業漏れのないよう基準を充実させましょう。

働き続けてくれるとは限らない

多くの国では、日本のように一社で定年まで働き続ける文化がありません。他に待遇の良い求人があればすぐ転職することもあります。離職率を少なくするような魅力的な労働条件などを考える必要があるでしょう。

規制が急に変わる

製造業に関わる工業規格や安全に関する規格は、環境や政治経済情勢の変化により、急に改訂される可能性があります。そのため急遽、製品の仕様を変えざるを得ないといったリスクが生じることもあります。規格動向は常にチェックしておきましょう。

海外事業立ち上げの成功事例

海外事業立ち上げに成功した2つの事例を紹介します。

企業A

企業Aはワインを製造する従業員30人の企業です。日本に輸入ワインが普及し、日本国内でのワインの販売に不安感を抱き、海外進出を検討しました。国内の海運会社から現地の卸業者に納め、現地のレストランや百貨店に販売する事業形態です。

施策として「甲州ワイン輸出プロジェクト」を立ち上げ、行政、地域の関係者が一体となり海外展開を実施しました。最初に、世界のワイン情報の70%が発信されるロンドンをターゲットにプロモーションを実施しました。続いてワイン認証機関(OIV)により「甲州種」を登録。EUワイン法をクリアし品質表示による輸出が可能となり、消費者へ認知してもらえるようになりました。現在ではEUの他にアジア圏への輸出が拡大しています。

企業B

企業Bは受配電盤を製造する従業員1,000人の企業です。毎年、世界中で200隻以上の船舶に製品を納入し、国内シェアNo.1の実績があります。造船が好調なアジアを目指してベトナムに進出し、現地に工場を設立しました。現地法人には日本から図面や材料を供給し、現地で生産したものを現地の輸送業者によって造船業に納める事業形態です。

JETROの相談窓口や既に進出している企業から情報収集し、海外進出の検討を進めました。工期を4回に分けて徐々に増築し、国内工場と同じ工具・生産設備を配置。国内と同じ作業手順書を現地と共有することで製品の品質が安定し、アジアの造船業との取引を拡大させました。

GSJ認定専門家

■ この記事の執筆者代表理事・認定専⾨家 深野 裕之

■ プロフィール概要 所属(肩書):NPBトレーディング株式会社代表取締役
専門領域:海外販路開拓

■ プロフィール詳細 海外の新規開拓を中⼼としたコンサルティング、ビジネスマッチングの専⾨家。これまでに47ヶ国に新規の販路開拓をしてきた経験と⼈脈を活かし、これから海外事業を始めたい企業、なかなか海外事業の成果が出ずに悩んでいる企業をサポートしている。新型コロナウィルスの感染が広がりはじめた3⽉から、海外企業とのオンラインビジネス交流会を4回実施。121社が参加し、マッチングの実績も多数あり。また、海外企業と、個別商談サポートも⾏っている。