国内市場の縮小や新興国の急成長にともない、製造業の海外進出は今や企業戦略にとって欠かせない存在です。海外事業を進める際には「現地法人」や「支店」、「駐在員事務所」など進出形態の選定が重要であり、初期投資のリスクにも大きな影響を及ぼします。
本記事では、進出形態の種類や各企業に適した進出形態の選び方など、メリット・デメリットを踏まえながら詳しく解説します。
Contents
進出形態を選ぶことの重要性
自社の製品やサービスに適した進出形態を把握することは、海外進出を検討する際の基本です。進出形態の適切な選択は、初期投資リスクをコントロールするうえでも重要な段取りであり、進出成功の鍵をにぎります。
なお、初期投資リスクを抑え「現地法人」以外の形態をとった場合、自社にノウハウや経験が蓄積されず、ビジネスの安定性に欠けるといった問題もあるため、様々な視点から慎重に検討する必要があります。
進出形態の種類
企業の海外事業には次の9つの進出形態があります。
現地法人
進出先の現地にて法人を設立し、海外に自社の拠点を設ける形態で、あらゆる進出形態の中で最もハイリスクハイリターンな手法です。また、後項で解説するように現地法人は資本形態によって「独資」と「合資」の2種類に分かれます。
メリット:
・自社の技術やノウハウの流出リスクが低い
・経営戦略をコントロールしやすい
デメリット:
・コストがかかる
・進出先の国や業種によっては外資比率が制限される可能性がある
支店
国内で新たに支店を設置する際と同様に、海外支店を設ける場合も本社と同じ事業を行い、投資や経営にともなうリスクもすべて本社が責任を負います。
メリット:
・本社と同一経営のため、新たに社内規定などを策定する必要がない
・日本国内の本社から原材料などを取り寄せる場合も社内取引の一環として本社で経費申告できる
デメリット:
・進出先によっては設置が承認されない可能性がある
駐在員事務所
市場調査や広告宣伝といった活動の拠点として設置される駐在員事務所ですが、非営利活動に限定されることが大きな特徴です。
メリット:
・法人登記や従業員雇用が不要
デメリット:
・直接的な営業活動ができない(本社経由で契約を行うことで、実際には営業活動を行っている企業も存在します)
販売代理店
進出先での販売を代理店へ委託する方法で、あらゆる進出形態の中でもリスクとリターンのバランスがとれた手法です。
メリット:
・現地商社の販路網を活用することで、海外事業には付きもののカントリーリスクなどネガティブな要因への対策がとれる
デメリット:
・現地顧客の声を感じにくく情報収集が難しい
・成功体験やノウハウ蓄積の実感が得られず、事業として成長しにくい
商社
日本国内の商社を介して、海外の事業者と取引をする代理販売形態の一種です。
メリット:
・販売代理店と同様に、商社の販路網を活用することで、カントリーリスクや信用リスクを低減できる
デメリット:
・商社が間に入ることで中間マージンが発生する
・工場や店舗、支店など各拠点間において製品を移送する際の輸送費用が増加するため、現地店頭価格が上昇してしまう可能性が高い
直接貿易
自社製品を海外顧客に直接販売する方法で、現地法人を設立する前段階として、マーケティングのテストを兼ねて導入されることが多い手法です。
メリット:
・進出先に製造拠点を設けるコストを節約できる
・海外の事業者に対して直接交渉を行うなど、現地のマーケティングを肌で感じることができる
・海外事業のノウハウを自社に蓄積できる
デメリット:
・関税などの輸出コストが発生する
・リスク管理を社内で行う必要があるため、人材や体制を慎重に選定しなくてはいけない
現地委託生産
現地委託生産とは、自社製品や部品の生産を海外企業に委託することで、生産コストの削減という効果が期待できる進出形態です。現地委託生産には「ODM」、「OEM」の2種類があります。
メリット:
・製造にともなう設備投資や人件費が発生しない
・企画、開発など製造以外の工程に人員を費やすことができる
デメリット:
・受託企業の設備や技術によって製品の品質が左右される
ODM
「Original Design Manufacturer」の略で、生産技術や設備などがない企業が、製品の企画から設計・生産にいたるまでを他社へ委託する手法です。
OEM
「Original Equipment Manufacturer」の略で、委託を受けた企業が他社ブランドの製品を製造する手法です。下請け製造の一種ですが、販売戦略として広く知られています。
フランチャイズ
事業者(フランチャイザー)が他の事業者(フランチャイジー)と契約を結ぶことで、商標使用権や商品販売権を与え、見返りとして一定の対価(ロイヤリティ)を受け取る手法です。有名なフランチャイズとしては、マクドナルドやケンタッキーフライドチキン、セブンイレブンなどが挙げられます。
メリット:
・自社に資本力がない場合でも、海外現地企業の資金や人材、販路網などを活用できる
・集客ノウハウなど、独立までの手助けを受けられる
デメリット:
・進出先フランチャイジーの業績によっては立て直しなどのコストが発生する
越境EC
越境ECとは、海外顧客をターゲットとしたオンラインビジネスのことで、インターネットを活用して海外へ商品・サービスを販売するECサイトを指します。
メリット:
・海外に直接出店するリスクやコストを低減できる
・在庫リスクを抑えることができる
デメリット:
・日本から海外へ発送するため、国内と比較すると輸送コストが高額になりやすい
・海外発行のクレジットカードによる不正利用など、トラブルへの対策が必要となる
自社EC
オリジナルドメインを取得した自社独自のECサイトのことで、自社の製品やサービスにあったデザイン設計やサイト構築が可能です。リピート購入に繋げやすい一方で、ECサイト構築に時間や労力、費用といった社内リソースを費やしてしまうことが難点といえます。
ECモール出店
ECモール出店とは、複数のショップが集まるECショッピングモールへの出店のことです。既存のプラットフォームを利用するため、ECサイトを構築する必要がなく、集客力が高いことがメリットですが、出品料や決済手数料など運用にはある程度のコストがかかります。
資本形態
先述した現地法人の設立は資本の種類によって2つの形態に分類されます。
独資
自社の出資のみで完全子会社を設立する形態です。投資が大きくなることでリスクも増えますが、その分リターンも大きい手法といえます。
メリット:
・すべて自社の裁量によって経営を行うことができる
デメリット:
・自国とは異なる進出先現地において、当局との折衝や販路開拓など、自社で行わなくてはならない点が多い
・進出先によっては100%外資の企業設立が承認されない場合がある
合資
現地企業など、パートナーと共同で出資することで現地法人を設立する形態です。
メリット:
・現地企業の実績やノウハウを活かした経営が可能
デメリット:
・パートナーの意向を汲むなど経営面での制約が多く、撤退時には様々なトラブルが発生するリスクも抱えている
・国や業種によっては外資の出資比率が制限されている場合がある
・事業によって得られるリターンをパートナーと分け合うことになる
自社にあった進出形態の選び方
ここでは、自社に適した進出形態の選定方法について、製品の「製造」を目的とする場合と「販売」を目的とする場合とに分けてご紹介します。
製造目的
製品の「製造」を目的とする場合には「現地法人」や「現地委託生産」といった進出形態が適しています。
現地法人
現地法人は、独資で設立する場合と合資で設立する場合で注意点に違いがあります。独資の場合には、自社単独で出資するリスクを負うことができるかどうかが大きなポイントです。また、進出先や事業内容において、外国企業が独資で法人を設立することへの規制なども事前に調査しておく必要があります。
合資の場合、共同で出資するパートナー企業が見つかるかどうかが重要ですが、さらにパートナー企業との間で経営方針や配当などをめぐり争いが起こるリスクを回避できるかどうかも大きな課題です。自社以外の企業と足並みを揃える必要があるため、何をするにもそれ相応の人手や手間、時間がかかります。
現地委託生産
現地に生産を委託する場合、生産量や製造ラインを柔軟に変更できないという難点があります。また、委託先企業の品質が自社基準を満たしているかどうか入念な確認が必要であると共に、生産にともなうノウハウが自社に蓄積されないという点も理解しておかなくてはいけません。
販売目的
製品の「販売」を目的とする場合の進出形態には「販売代理店」や「商社」、「直接貿易」などがあります。
販売代理店
代理店に販売を依頼する場合、販売力を有する信頼性の高い販売代理店を見つけなくてはいけません。また、価格や販売品質といった面で販売代理店を上手く管理することが重要であり、進出先の市場や顧客情報を入手する仕組みを作っておく必要があります。
商社
商社を介して販売を行う場合、自社製品に関する販路や情報網を備えた商社であるかどうかが重要なポイントです。また、商社の中間マージンを踏まえたうえで継続可能な事業であるか、入念な計画が必要になります。なお、海外進出のノウハウが自社に蓄積されないこともよく理解しておきましょう。
直接貿易
直接貿易による進出の際には、貿易海外取引の負担やリスクに対応できるかどうかが大きな課題です。また、海外向けのWebサイト制作に関するノウハウを持っているかどうかも重要なポイントであり、社内のリソースを確認・整理する必要があります。