Languages

Glocal Solutions Japan

海外進出戦略の作り方とポイント

ブログサムネイル

海外進出戦略の作り方とポイント

人口減少や少子高齢化により、日本国内だけで市場の拡大を狙うのが厳しくなってきていることは、多くの方が感じていると思います。しかし、海外進出をしようと思ってもどんな戦略を練っていけばいいのかわからないのではないのでしょうか。

今回の記事では、「戦略をどのように作っていくのか?」「戦略策定におけるポイントとは?」について説明します。

戦略の作り方

海外進出において戦略を練ることは不可欠で、戦略がないと失敗してしまいます。失敗したときに失う資金・自信は計り知れないものです。時は金なりとはいいますが、戦略には十分時間をかけていきましょう。

戦略を作るには、まず経営理念の確認をします。今本当に海外進出をするべきか、なぜ海外進出をしたいのかを明確にしましょう。それから自社の分析をすることによって、進出する国や進出する市場を明確にしていきます。

1.経営理念の確認

経営理念とは経営者の信念に基づいた企業の価値観、向かうべき方向性(ベクトル)のことです。
全社員と経営理念を共有させることで組織全体の統一感が高めやすくなるだけではなく、従業員が経営者と同じ基準で物事を判断できるようになります。お互い、何のために仕事をしているのか理解ができるので、仕事にやりがいを感じ、パフォーマンスが上がりやすくなります。

以上のことから、海外進出を成功させるためには、まず、自社が存在するための経営理念をはっきりさせておきます。続いて進出先の現地マネージャーに経営理念を浸透させ、効率よく現地でのマネジメントを進めていきます。日本からのオペレーションだけでは限界がありますが、経営理念を浸透させることで、ある程度現地での意思決定と現地適応を、現地経営者に任せられます。

2.自社の現状分析

海外のどこに進出すれば自社の製品が売れるのか?ということは、SWOT分析をすることによって見えてきます。まず、SWOT分析をして自社の現状を分析しましょう。

SWOT分析

SWOT分析とは、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つを分析したもので、それぞれの頭文字を取った名称です。強みと弱みは自社に関する分析内容で内部環境と呼ばれ、機会と脅威は市場に関する分析内容で内部環境と呼ばれています。

海外進出の支援に関する補助金申請ではSWOT分析の提出が求められることが多く、それだけ戦略に必要なツールとして認識されています。

内部環境(Stong, Weak)

ある程度、国内で事業をしていれば、自社の強みと弱みは抽出できます。顧客や販売店に直接ヒアリングして、製品やサービスを採用した理由や改善してほしいところなど、SとWをリストアップしていきましょう。例えば、小ロット多品種に対応できるが、納期に柔軟に対応できていないなど、技術力や営業、アフターサービス、販路といった面から分析をします。

強みと弱みを分析するフレームワークとして「VRIO」が活用できます。VRIOとは、それぞれ以下の頭文字を取ったものです。
・Value(経済価値)
・Rareness(希少性)
・Imitability(模倣可能性)
・Organization(組織)

外部環境(Opportunity, Threat)

一方、機会と脅威といった外部環境については、先ほど説明した内部環境とは切り分けて考えます。進出先の候補となる地域の政治経済や社会的な状況、市場規模やその地域の競合他社の進出状況を分析します。このような各国の情勢については、ジェトロや海外進出の支援をしている企業から情報を得ることができます。

脅威を分析するフレームワークとして、「5Forces」があります。5Forcesとは以下5つの競争要因を総称したものです。
・新規参入の脅威(entry)
・競合の脅威(rivalry)
・代替品の脅威(substitutes)
・供給者(サプライヤー)の脅威(suppliers)
・購入者(顧客)の脅威(buyers)

3.戦略の策定

4つの項目を洗い出したら、強み、弱み、機会、脅威をマトリクス的に組み合わせて自社の進出可否の可能性を明確にしていきます。それぞれの組み合わせで、以下のような解釈ができます。

・強みと機会(S×O)
強みを活かし、機会を最大限活用する。

・弱みと脅威(W×T)
弱みを克服し、防衛する。または撤退を検討する。

・強みと脅威(S×T)
強みを活かし、脅威を切り抜ける。

・弱みと機会(W×O)
弱みを克服し、機会を逃さないようにする。

仮説検証をする

前項で説明した各SWOTのそれぞれの組み合わせによる仮説を立ててみましょう(クロスSWOT分析)。ここで複数の仮説が出てくるのですが、優先順位としては強みと機会の仮説を採用して、弱みと脅威の仮説を戦略の候補から外す場合が多くみられます。このような仮説を立てた後はジェトロなどの支援機関への相談や、同じビジネスモデル例の確認など、仮説の検証を行い、分析の結果が正しいかどうか確認することで、確実性を高めていきましょう。

戦略策定におけるポイント

戦略策定では、進出の目的と、ビジネスモデルの整合性を確認します。

進出目的の確認

ここでは海外に進出する主な目的を紹介します。自社が海外に進出する目的を今一度確認しながら、どのような点に気をつけたらよいかチェックしてみましょう。

コスト削減

・人件費削減
中国や東南アジアなど、日本よりも安い賃金で雇える地域に生産拠点を置くことで、人件費の削減が期待できます。ただし、経済成長とともに人件費は高騰しますので、今現在の賃金レートだけで判断するのではなく、進出先の経済成長率から10年後の賃金を想定しても事業が成り立つかどうか検討しましょう。

・材料費削減
現地で部品を調達することで、材料費の削減が期待できます。ただし、日本と同じ品質要件に満足できず、結局日本からの輸出に頼ることになってコスト増となる恐れもあります。現地で日本と同じように対応できるサプライヤーがいるかどうか、事前に確認をします。

・円高回避
円高になると輸出による売上が下がるなど、為替の変動はそのまま売り上げの変動に直結します。これを回避するために、海外への進出によって為替による売り上げ変動の影響を受けないようにします。
また、拠点を海外に構えることで、現地従業員への給料を日本から送金することがなくなり、為替の変動による固定費の変動も回避できます。ただし、連結ベースの売り上げを円換算で表現する場合は為替の変動があることは考慮しておきましょう。また、円安や円高のいずれに傾いてもメリットとデメリットが存在するため、総合的に考えると円高回避を海外進出の第一の目的にはしないほうが得策です。

人材確保

ソフトウェア開発技術など、進出国によっては日本より高度な技術を持っている人材を雇用できるメリットがありますが、転職志向が日本より強い国があるのでどう引き留めるかが課題です。

取引先との密着

完成品メーカーの進出要請に応じて、海外に進出する場合があります。
気を付けなければいけないのは、自社がただの安価で品質が安定した製品を供給するだけの存在と思われていないか、ということです。今後もずっと取引を継続してもらえることを確約できるかどうかがポイントです。

完成品メーカーは、日本の取引先が一緒になって海外に進出してくれることで、現地のサプライヤーを開拓する手間が省略できます。現地では品質や納期の対応を満たすサプライヤーが見つからない恐れがあるからです。また、日本からの輸入による調達はコストがかかるため、サプライヤーについてきてもらったほうが完成品メーカーにとってメリットがあります。

そこで、進出を決意する場合は、国内既存取引先の現地工場など、他にも自社の製品やサービスが供給できないか検討しましょう。候補としては取引先の現地日系工場が良いでしょう。日系企業のほうが国内と同じ取り交わしができる可能性があるためです。

市場の開拓

海外進出の目的として最も多いのが市場の開拓です。
日本では少子高齢化による生産年齢人口の低下、最低賃金の上昇率の低下からくる消費購買力の低下により、売り上げの成長が期待しづらくなるのは多くの企業の共通認識となっています。
逆に、世界の市場は拡大しており、人口増に伴う生産年齢人口の増加、最低賃金の上昇率の高さからくる消費購買力の増加が期待できます。

前項で紹介したSWOT分析から、自社に最適な市場開拓先を見極めましょう。まずは越境ECや輸出から始めて、自社の商品が現地で受け入れられるかどうか感触をつかみながら、段階的に進出度合を深める方法でも良いでしょう。

リスク分散

海外進出にはリスクが伴います。例えば、ウクライナ情勢のように、急に戦争が始まり事業の継続ができなくなる地政学リスクというのがあります。また、中国で策定された「データ安全法」では、中国で研究開発したデータが国外に持ち出せなくなる事態が発生しました。

その他、各国の法律、規制の変化に対応しなければならないリスク、輸出入の制限や関税の引き上げが起こるリスクなどがあります。このようなリスクを想定するのは難しいのですが、特定の地域に拠点を集中させないことがリスク分散の戦略として挙げられます。

ビジネスモデルの整合性

続いて、海外進出のビジネスモデルの妥当性について、以下5つの観点からチェックしていきましょう。

1.製品

・部品・材料の調達経路
調達経路としては、現地調達か日本からの輸出があります。また、日本の工場である程度組み立てた後、KD(ノックダウン)部品として、日本から半製品を輸出する方法があります。
初めからすべて現地調達になると、採用までに時間がかかるのと、納入不具合などのリスクが伴うので、はじめは部品やKD部品の輸出で対応し、徐々に現地調達比率を増やす戦略が考えられます。
事業として成立するのであれば、まずは完成品の輸出からはじめて市場の反応が良ければ海外進出を検討しても良いでしょう。

・市場動向
市場動向を把握しないで戦略を練ることはできません。市場で何が起きていて、何が売れているのか、顧客のニーズとウォンツを探り出し、競争力の高い商品開発につなげます。

・どれを製造するか?
日本と同一の仕様では売れない場合があるため、その国に合わせたローカライズが必要です。ハイエンドが売れる国があればローエンドが売れる国もあります。製品仕様の共通化とのバランスが許容できる範囲で、その国の文化や趣味嗜好を踏まえて製品の要求性能を決めていきましょう。

各地域の要求仕様の集約については、海外進出を支援する機関に協力を要請するか、または海外進出支援会社に聞くのも良いでしょう。主な支援機関としてはジェトロ、中小企業基盤整備機構、商工会・商工会議所、政府系金融機関、地方自治体などがあります。すでにライバル会社が参入している市場であればどんな課題があるのか、ライバル会社の顧客や販売店にヒアリングする手段も考えられます。

2.価格

・原材料の調達コスト
原材料は輸出に比べて現地調達のほうが安いのですが、納品先の品質基準に見合わないことがあります。対策として現地の企業へ技術指導をして現地企業の品質レベルを上げる方法があります。現地調達ができれば納期短縮や為替リスクを回避できるメリットがあります。また、輸入時にかかる関税を回避できます。各国の関税はワールドタリフで調べられます。ワールドタリフはジェトロの登録ページから無料会員登録すれば使うことができます。

・輸送コスト
日本から原材料を輸出する場合は、現地工場とのインコタームズを明確にする必要があります。また、
船便か航空便か明確にします。それぞれ早さとコストのメリットとデメリットがあります。輸送にはコストが掛かるだけではなく、税関手続きのための書類作成も必要になることを考慮しておきましょう。

・価格調整
国内で開発した製品を海外の現地法人から販売する場合は移転価格税制が関わってきます。あらかじめ拠点間での技術契約やロイヤリティの設定が必要になる場合がありますので、契約書の内容やロイヤリティの設定額を確認しておきましょう。また、国内からKD部品を輸出する際は移転価格税制上問題ない価格の設定にします。

・決済方法
決済方法にはいくつか種類があります。当事者同士の決済や、銀行や民間企業(アリババ)などの第三者が入る決済があります。
当事者同士の場合、T/Tやペイパルでの支払い、お互いの銀行を経由する場合はL/C決済やD/P決済があります。またアリババなどの第三者を経由するエスクローと呼ばれる決済方法があります。
取引金額が高い場合は銀行を挟んだL/C決済のほうが良いのですが、銀行の与信が必要になります。

3.販売促進

・営業方法
現地に精通している人に営業してもらうのが効果的です。自分たちで直接営業するのではなく、現地の良い代理店を探します。

・営業相手の探し方
ジェトロなどの支援機関を活用し、営業相手を探します。

・Web&SNSマーケティングの方法
効率的な集客の手段です。現地の言語でホームページやSNSを始めることで、日本にいながら問い合わせを受けられる可能性があります。海外ではLinkedInが多く使われています。現地の特定の情報やニーズなど、日本では得られない情報が入手できる可能性があるため、LinkedInの開設はマーケティングに効果的です。

4.現地法人の組織や運営体制

主に、以下について専門家に確認しておきましょう。

・現地スタッフの管理方法
日本式の管理が適用できないことがあるため、現地の管理者を採用し任せる方法があります。

・人事評価制度
社内の人事制度(等級制度、報酬制度、評価制度など)をきちんと整備したうえで、従業員へ説明します。目標設定・面談・フィードバックのプロセスを果たせば、賃金交渉はやりやすくなります。

・労働法
海外出張の場合は日本の労働基準法が適用されますが、海外派遣などによる海外勤務の場合、現地の事業主の指揮命令の下で勤務することになり、そこが独立した事業所と考えられることから、日本の労働基準法を基にした就業規則は適用されません。そこで、次の項目に関する海外勤務規定を自社として決めておく必要があります。

・海外勤務期間
・勤務条件、休日
・給与
・税金、保険料
・赴任、帰任旅費
・福利厚生(各種手当など)
・赴任者の家族について など

5.販売ネットワーク

・販路の作り方
販路を開拓するには地道に販売代理店やパートナーを探していかなければなりませんが、越境ECなどで手っ取り早く販路を作る方法があります。ECサイトでの販売の他に展示会・商談会により、販売代理店の認知を増やして販路を開拓します。

・流通会社の選定
販売代理店などの流通会社は、商品の販売だけではなく、アフターフォローまで行ってもらえるところを探しましょう。流通会社に求める条件を洗い出し、条件と一致する企業をリストアップし、その企業にアプローチします。探し方は支援機関に相談してみましょう。

・パートナー企業の選定
現地での販路開拓やサプライチェーンの構築、メンテナンス体制の構築、ロジスティックの確保などを自力でやるのは大変です。そうした作業への対応として、同業他社との協業化という方法も考えられます。
協業には契約をはじめ、さまざまな課題があるため、支援機関や専門家に相談しましょう。

【業態別】戦略作りのポイント

メーカー

主に完成品のメーカーを現地で販売する企業を想定した戦略作りのポイントです。

全体のマネジメント

現地に工場を設立して生産していくにあたっては、製品の原材料や生産技術、品質、人、現地独自の課題など、さまざまな面でマネジメントをしていかなければなりません。日本人一人が現地に出向してすべての部門をマネジメントすることは不可能であるため、各部門にコアとなる経営者をアサインし、各経営者と経営理念を共有し、各部門で意思決定ができるような体制を作ります。

サプライヤー

サプライヤーは完成品メーカーと比べて代替されるリスクが高いため、既存の取引先に頼るだけではなく、新規顧客の継続開拓が必要になります。

マーケティング&セールス

新規獲得からセールスで勝つパターンを確立し、現地取引先から売上を拡大し続けることが重要です。完成品メーカーの課題を抽出して、競合が少ないところや需要が多いところを調査して、展示会やWebで現地販売店の認知度を広めましょう。

日本の完成品メーカーからの要請で海外に進出する場合でも、現地顧客の新規獲得を推進することが重要です。現地サプライヤーには日本ブランドを意識した差別化を、現地営業担当にアピールし、海外進出同業他社においては日本国内で戦っているつもりで差別化を図っていきます。

GSJ認定専門家

■ この記事の執筆者代表理事・認定専⾨家 深野 裕之

■ プロフィール概要 所属(肩書):NPBトレーディング株式会社代表取締役
専門領域:海外販路開拓

■ プロフィール詳細 海外の新規開拓を中⼼としたコンサルティング、ビジネスマッチングの専⾨家。これまでに47ヶ国に新規の販路開拓をしてきた経験と⼈脈を活かし、これから海外事業を始めたい企業、なかなか海外事業の成果が出ずに悩んでいる企業をサポートしている。新型コロナウィルスの感染が広がりはじめた3⽉から、海外企業とのオンラインビジネス交流会を4回実施。121社が参加し、マッチングの実績も多数あり。また、海外企業と、個別商談サポートも⾏っている。