少子高齢化による国内の需要低下から、海外進出の相談を受ける機会が増えてきました。海外進出が成功すれば企業の成長に繋がりますが、デメリットも少なくなく、失敗する例も存在します。
今回の記事では海外進出におけるメリットとデメリットについて、海外進出支援の実績がある専門家が事例を踏まえて解説します。
Contents
海外進出のメリット
海外進出のメリットは、次の通りです。
- 積極的な販路拡大ができる
- 生産コストを下げることができる
- 税制上のメリットが得られる
- 現地企業との強固なアライアンスを実現できる
積極的な販路拡大ができる
日本の人口は2004年をピークに減少の一途をたどっています。また、海外企業が日本に製品やサービスを展開するようになったことで日本国内への供給量が増え、国内市場は飽和状態と言われています。このような状況を打開するために、海外進出による販路拡大を狙う企業が増えてきています。
企業Aの事例
企業Aの概要
業種:医療機器製造業
規模:200人
進出地域:アメリカ、オーストラリア、カナダ、その他アジア、ヨーロッパなど
A社は歯科医療機器を中心に製造・販売を行う会社です。世界の人々の健康づくりを促進したいという想いから、販路拡大を図るため海外進出に着手しました。アメリカに販売およびメンテナンスの子会社を設立し、依頼を受けてから3日以内にメンテナンスに対応することで、現地企業の信頼を獲得していきました。
その後、取引する海外の販売およびメンテナンスの代理店数を拡大し、現地の人材を教育することで、積極的に営業の有効件数を増やすことに成功。細やかなフォローでエンドユーザーとの信頼関係を築いていきました。
生産コストを下げることができる
海外では、日本と比べて部品の調達費用や人件費が安い地域が多いため、海外進出によって生産コストの削減が見込めます。特に発展途上国や開発途上国は人件費が安く、現地の人材を積極的に採用して教育することで、生産コストを下げる事例があります。
企業Bの事例
企業Bの概要
業種:自動車部品の製造
規模:1,000人
進出地域:北米、中国
B社は自動車部品のメーカーです。完成車メーカーが海外に進出するのを機に、同じ進出先に現地法人を設立しました。現地で工場を設立するには多くの費用がかかりましたが、設計部門や品証部門を始め、関係部署の管理職を現地から採用することで、国内からの出向者を最小限の人員で対応。
これまでは日本から完成品を輸出していましたが、部品を現地で調達し、組み立ておよび最終検査をすべて現地で行うことで、部品コストだけではなく、人件費も抑えることに成功しました。
税制上のメリットが得られる
海外に関わる税金として、法人税と関税が挙げられます。海外現地に法人を設立すると、現地の法人税が適用されます。日本の法人税は29.74%で世界第6位(2022年6月時点)です。日本より税率が低い国に進出すれば、法人税が安くなって収益が改善します。
例えば、中国の基本法人税率は25%ですが、利益が低い企業や中国が援助する対象となるハイテク企業は税金が軽減されます。また中国の深圳や厦門のような経済特区では、最初の収入から1~2年目までは法人税が免除、その後5年目までは法人税が半減されます。
現地で生産した製品を海外に輸出する場合は、関税がかかりますが、東南アジアの10か国で構成するASEAN諸国間では、ほとんどの品目で関税が撤廃されます。
企業Cの事例
企業Cの概要
業種:食品(お茶メーカー)
規模:10人
進出地域:ベトナム
企業Cは日本茶の製造・販売会社です。「日本で親しまれているお茶を世界に広めたい」と考えていたところ、日本の仕入れ先を探しているベトナム人と知り合いました。ベトナムに日本茶の需要があると考えたC社はベトナム法人を設立し、原料をベトナムへ輸出して製品のパッケージングを現地で行いました。
なるべく現地で加工することで人件費を抑えるだけではなく、ASEAN諸国への輸出を対象にすることで関税を大幅に抑制。結果として、商品の価格競争力を大幅に向上することができました。
現地企業との強固なアライアンスを実現できる
アライアンスとは、事業を成長させるために2社が協力して業務を進めることです。M&Aのような資本の移動や2社の合併はなく、あくまでも契約締結だけの結びつきになります。進出先で既に成功している現地の企業とアライアンスを結ぶので、海外進出のメリットに素早く到達することができます。
また、アライアンスができるということは、現地の相手企業に評価されているということになりますので、それだけ企業価値が高くなります。現地企業の販路を活用できる、協業相手の取引先にも受け入れられるメリットがあります。
企業Dの事例
企業の概要
業種:マーケティング支援
規模:200名
進出地域:ベトナム
ベトナムへ進出したD社は、現地に法人を設立していましたが、ベトナムでの事業展開を図るためには同業種のベトナム企業との提携が必要と考え、パートナーを探していました。市場調査の結果、ベトナムのO社を知りました。
交渉の末、アライアンスが成立。現地に法人を設立していたことで現地のアライアンスパートナーへ本気度が伝わり、より強固な協力関係を築くことに成功しました。
海外進出のデメリット
海外進出のデメリットは、次の通りです。
- 新規開拓がうまくいかず苦労する
- 人件費の上昇
- 働き方に関する価値観の違い
- 法規制の違いやカントリーリスク
新規開拓が上手くいかず苦労する
海外進出にはさまざまなリスクが存在します。主に以下の理由で、新規開拓がうまくいかない場合があります。
- ニーズが合っていなかった
- 外資系企業の進出に厳しい規制があった
- 高い関税がかけられていた
このようなリスクを完全に取り除くことは難しいのですが、事前に市場調査を十分に行い、リスクを回避する方法を検討しましょう。市場調査については新輸出大国コンソーシアムを活用するなど、第3者の意見を積極的に求めてみましょう。
また、自社のSWOT分析をして、海外進出に適している地域はどこか見定めることが必要です。
企業Eの事例
企業Eの概要
業種:射出成型品の製造
規模:100人
進出地域:インドネシア
射出成型品を生産するE社は、海外進出を狙う日本の取引先Y社から現地法人を開設するよう要請があり、現地法人を開設しました。Y社は現地調達を考えていたのですが、要求する品質に見合う企業を探せなかったため、E社に要請しました。しかし、現地法人を開設した後に状況は一変。不況によってY社からの仕事が期待を大幅に下回ってしまったため、想定していた売り上げが大幅に減ってしまいました。
このような状況を防ぐには、ただ取引先の要請に従うだけではなく、事前に市場調査を行い、海外進出の成立性を十分に調査しておくことが必要です。
人件費の上昇
人件費や調達価格の安い国に進出しても、想定外の理由で人件費が上昇する場合があります。例えば、労働組合の要求を受け入れて派遣社員の一部を正社員化したり、競合への流出により雇用が難しくなったりすることが挙げられます。
新興国は日本に比べると経済発展のスピードが速く、数年かけてやっと進出できても、その間に人件費が高騰してしまったという例もあります。
企業Fの事例
企業Fの概要
業種:機械加工メーカー
規模:50人
進出地域:タイ、マレーシア
F社は自動車部品に使用する金型の機械加工メーカーとして、タイとマレーシアに進出しました。しかし、昨今のパンデミックの影響で人員を削減せざるを得ない状況に陥り、さらに景気の急回復による再雇用が追い付かず人件費および採用コストが高騰しました。
F社は、赤字寸前の経営となってしまいましたが、事前に想定外のコスト増を見通してキャッシュを確保していたことと、海外進出を支援する制度の一つである「JAPANブランド育成支援等事業」を受けていたので、急な採用コストの増加でも赤字経営を免れることができました。
働き方に関する価値観の違い
日本では働き方改革の背景から、以前よりも労働時間が減ってきているものの、依然として残業時間が多い企業も少なくありません。海外では残業せずに必ず定刻に帰る文化を持った国もあるため、スケジュール面で調整しづらいこともあります。
また残業してまで仕事を当日中に終わらせる必要がないなど、仕事の完了目標に対する温度差が出ることも考慮して、業務のすり合わせを行ったほうが良いでしょう。
企業Gの事例
企業Gの概要
業種:電機部品メーカー
規模:300人
進出地域:中国
G社は小型のモータを製作・販売する企業です。日本にある取引先M社からの価格低減の要請で、中国メーカーZ社との協業により日本へのOEM製品の供給を進めていました。しかし、Z社は日本と働き方の価値観が異なりました。
例えば、仕事をやり遂げる責任感がある人や「残業してまで働きたい」という人は少ない傾向があり、納期通りに対応ができない場面がありました。改善しようにもなかなかマネジメントができず悩んでいました。
また、中国では会社での忘年会を大切にする文化があり、忘年会の前日は余興の練習のためほとんど仕事に手が付けられないといったこともありました。
G社はこのような状況を鑑みて、生産スケジュールをその国の文化に合わせるよう考え直した結果、業務を円滑に進めることができました。
法規制の違いやカントリーリスク
海外に進出する上で考えなければならないリスクが「カントリーリスク」です。カントリーリスクとは、進出先の国や地域における、政治経済や宗教、文化、自然災害によるリスクのことです。
例えば、進出先で暴動や戦争が勃発して取引ができなくなったり、急激なインフレーションで代金の受け取り額が目減りしたりすることが挙げられます。カントリーリスクに対応する方法として、OECD(経済協力開発機構)や格付け会社であるR&Iがカントリーリスクの格付け情報を発表しているので、こちらを確認すると良いでしょう。
また、日本貿易保険(NEXI)や民間の保険会社が扱う貿易保険に加入する方法もあります。
企業Hの事例
企業Hの概要
業種:電子部品メーカー
規模:100人
進出地域:中国
電子部品メーカーであるH社は中国に製造工業を設立しました。しかし、2012年に日本の尖閣諸島の国有化が報じられてから、中国各地で抗議デモが行われることに。デモの一部は暴動に変わり、工場は襲撃や放火による嫌がらせを受けてしまいました。
現地に出向している日本人は外出禁止令により活動が制限され、日本からの輸入品に対して検査が厳しくなるなど、事業活動が滞る事態に発展しました。
中国に限らず、途上国においては法規制が頻繁に変更されたり、度重なる改定によって法律の専門家でないとよく分からないことがあったりします。対策として日頃から現地の情勢について情報を収集する手段を持っておくことが重要です。