海外進出を考えている企業にとって、資金調達が大きな課題となります。特に海外進出を始める初期の段階では、海外展示会に出展する費用や現地に進出する前の調査、進出した後に発生する設備投資の費用、現地法人を立ち上げるための費用、現地のコンサルティングを依頼する費用、そして新しく人材を採用する費用など、多額の費用を必要とします。この時点で海外進出を断念する企業も少なくないのではないでしょうか。
一方で、このような課題の解決を支援するための補助金や助成金が充実しており、これらを活用して海外進出に成功している例は少なくありません。
今回は、海外進出を検討している企業が利用可能な助成金・補助金について、提供している期間や目的に合った探し方をご紹介します。
補助金・助成金の基礎知識
補助金と助成金の定義は次の通りです。
補助金とは?
補助金とは、海外進出や新規事業など、新しい事業を展開するために必要な資金の一部を援助するものです。主に国や地方自治体が実施している制度で、経済産業省が管轄しており、税金を財源としています。
案件は公募によって募集され、要件を満たしていれば応募できます。助成金に比べて一事業者に支給する金額が大きいのが特徴です。ただし、募集期間が限られるうえに、審査があるために全員が採択されるわけではなく、また支給も事業が終わってからになる、というのが補助金の特徴です。
助成金とは?
助成金は、管轄する期間によって定義が異なります。厚生労働省が管轄する助成金は主に雇用の維持や人材育成を援助しています。地方自治体や各種財団が管轄する助成金は、補助金と同様に企業の事業推進や拡大を支援しています。補助金との違いは、申請に必要な要件を満たしていれば、審査を受けず受給でき、申請期間が長期間に渡って設けられていることが挙げられます。
活用のメリット
補助金や助成金を活用するメリットとしては次の点が挙げられます。
メリット1(返済する必要がない)
補助金や助成金は融資とは違って、原則返済する必要がありません。支援してもらう資金を返済せず、そのまま海外の新規事業や事業拡大に活用できるのが大きなメリットです。
メリット2(事業の価値が上がる)
助成金は要件を満足していれば受給できますが、補助金は募集の枠が決まっているため審査を通過しないと採択されません。
言い替えれば、審査を通過するとそれだけ価値のある事業だと認められることになります。審査する機関に事業の優位性や将来性があると判断され、事業価値が上がります。補助金の審査に通過した事実が、まだその企業を認知していない顧客にとって信頼できる企業だと思ってもらえるでしょう。
活用のデメリット
一方、デメリットとしては次の点が挙げられます。
デメリット1(審査が必要)
補助金を受給するためには、まず審査に通って採択される必要があります。審査を通過するためには各公募案件に従って事業計画などの申請資料を提出しなければなりません。
また、支給額は、使用した金額の内訳を細かく報告した後に決まるので、実質後払いとなります。融資とは異なり、審査が通ればすぐ支払われるわけではないため、支払いから受給まで一定期間のあいだ、運転資金を確保する必要があります。
デメリット2(時間の制約がある)
補助事業には期間が限られているため、時間の制約があります。事業期間が短いと、早く終わらせるために焦ることもあります。
逆に、応募から交付決定まで時間がかかるため事業に着手できず、時期を逸してしまう場合があります。自社の事業計画や市場動向を鑑みて、タイミングが合わない場合は、あえて補助金を使わないという選択肢もあるでしょう。
一般的な採択までの流れ
案件を探して、支払いが完了するまでのステップは次のとおりです。
STEP 1(案件を探す)
まずは自社の目的に合致した募集案件を探します。経済産業省や各自治体から公開される公募を確認しましょう。補助金は毎年決められた期間に募集されることが多いため、前年度の募集時期を参考に常に情報をチェックし、申請するタイミングを逃さないようにします。
STEP 2(申請する)
補助金の場合、募集案件を決めたら、審査に必要な資料を作成します。必要な資料の内容やフォーマットは各公募要領に示されています。申請書を提出した後は各制度の管轄元によって審査が行われます。
最近は紙の提出ではなく、電子データでの提出が主流になっています。補助金の場合、申請にはデジタル庁が管理する「gBizIDプライムアカウント」を使うことが増えているので、あらかじめ取得するのをおすすめします。
STEP 3(事業を開始する)
交付決定された後は申請した補助事業を開始します。この時点では補助金は振り込まれないため、事業に必要な資金は別の方法で確保します。採択前に補助事業を始めてしまうと支払われないケースもありますので、補助事業の開始時期には注意を払います。
助成金の場合は1年など、一定期間の助成期間があり、この期間にかかった費用や経費が助成金の対象となります。
STEP 4(報告書を提出する)
補助事業や助成期間が終了した後は、実施した結果を報告書にまとめて提出します。また、事業にかかった費用を計算して受給のための請求書を作成し清算払申請をします。
提出先の機関で検査を行い事業の結果に問題がなければ、報告書と請求書が受理され、いよいよ補助金が振り込まれます。
中小企業におすすめの補助金・助成金
ここから、海外展開の目的毎におすすめの補助金や助成金を紹介します。
JAPANブランド育成支援等事業
経済産業省の中小企業庁が実施する補助金の制度です。中小企業庁が選定した海外販路開拓のプロフェッショナル事業者が支援パートナーとなって、海外でのマーケットで通用するような商品力、ブランド力の向上を支援し海外販路開拓の手助けをする制度です。
海外で販路開拓を目指す事業計画を提出し、支援パートナーが提供する支援サービスを受けることが要件です。補助額は上限500万円で、同じ取り組みをする他の企業と一緒に申請することで1社ごとに500万円上限額が嵩上げし、最大で2000万円の補助を受けることができます。
補助率は補助対象経費の2/3で採択3年目以降は1/2になります。
2022年度の公募期間は6月20日から8月1日です。審査を経て9月に交付が決定された後、10月から翌年3月までが事業の実施期間となります。実績を報告し確定検査を受けたあと、4月に支払いとなります。今年度は公募期間が終了しますので、申請する場合は来年度検討すると良いでしょう。
補助対象の経費はこちらを参考にしてください。
当社もJAPANブランド育成支援等事業の支援パートナーに選定されております。当制度へのご応募の際はぜひご相談ください。
新輸出大国コンソーシアム
ジェトロなど、全国1117の支援機関が共同体となって、海外展開に関する業務の支援を行う制度です。戦略策定から操業開始まで一貫して支援する「ハンズオン支援」と、海外展開戦略策定や貿易実務、現地の規格対応、コンテンツの現地言語翻訳など個別課題に対応する「スポット支援」があります。補助金を支払う金額的な支援というよりは支援機関が専門家の人件費や出張費などの一部を負担しながら事業を支援していきます。
2022年度の本サービスの提供期間は2023年の2月28日までです。
以下から募集要項を確認することができます。
新輸出大国コンソーシアム(JETRO)
技術協力活用型・新興国市場開拓事業
本事業は開発途上国に進出する日本企業の活動を支援するための事業で、経済産業省が委託先を公募しています。一般財団法人、海外産業人材育成協会は本事業を委託されている機関の一つです。
事業内容は「研修・専門家派遣事業」をはじめ、計6項目のカテゴリに分かれています。開発途上国への進出においてはビジネスの制度やシステム、商習慣、技術を構築するための人材や企業が現地に足りないことが、進出のハードルになっています。本事業ではそれらの技術指導などの人材育成を支援することによって、開発途上国のビジネス環境を整備することを目的としています。
公募期間はそれぞれのカテゴリで異なりますが、約1か月の期間が設けられています。日本の事業制度や事業環境を海外に移転する場合が対象です。補助額は補助対象経費に対して1/3ですがアフリカの場合は1/2になります。
進出先の現地拠点の人材育成の支援を考えている場合は、以下を参考にしてください。
技術協力活用型・新興国市場開拓事業(AOTOS)
JICA 中小企業・SDGs ビジネス支援事業
海外展開をしたい日本企業と自国が抱える開発課題を解決したい途上国とのマッチングを支援する制度です。SDGsは国連本部で採択された「持続可能な開発目標」のことで、環境や貧困撲滅などを含む17の目標と169のターゲットがあります。
支援する事業内容は主に以下の3つに分かれ、それぞれに中小企業支援型とSDGsビジネス支援型があります。中小企業支援型は原則中小・中堅企業、SDGsビジネス支援型は原則大企業に該当します。それぞれの項目、支援型で支援する金額は決められており、中小・中堅企業への支援額のほうが高い金額となっています。
2022年度は8月上旬から公示が始まります。10月31日に応募が締め切られ、翌年2月中旬に審査結果が通知された後、3月中旬から事業が開始します。
・基礎調査
現地で基礎的な情報を収集・分析する企業に対して数か月から1年程度の支援をします。
・案件化調査
ビジネスモデルの素案を策定する企業に対して数か月から1年程度の支援をします。
・普及・実証・ビジネス化事業
技術・製品やビジネスモデルの検証、普及活動を通じ、事業計画を策定する企業に対し1年から3年程度の支援をします。
詳細は以下のサイトを参考にしてください。
JICAの民間連携事業
デジタルツール等を活用した海外需要拡大事業費補助金
越境EC(電子商取引)を積極的に取り入れたブランディング、プロモーション等の取り組みを行う場合に、その経費の一部を補助する制度です。
これからECサイトを構築したい、またはECサイトを構築したが、商品の売り上げが伸び悩んでいる企業に対して、専門知識を持つ「支援パートナー」から支援サービスを受けられます。自社の強みをうまく表現・発信、またブランディングに関して支援を受けるものです。
令和4年度のスケジュールは次の通りです。
5月に公表された後、1.5か月間の公募期間、1か月の審査期間を経て、8月に採択企業が決まりります。9月から5か月の間が事業の期間です。この間に状況報告や中間検査があります。翌年の2月に実績報告、確定検査を経て、補助金の申請後、3月末に支払いとなります。
補助額の上限は1社で500万円ですが、複数の企業で申請すると1社毎に500万円嵩上げし、最大5000万円まで申請できます。補助率は補助対象経費の2/3です。
補助を受けるための要件は以下の通りです。
- 越境ECを利用した海外での販路開拓や拡大を行うこと
- 海外に展開する自社製品を開発していること
- 商品のプロモーションを実施することが決まっていること
- 支援パートナーが提供する支援サービスを受けること
詳細は以下の中小企業庁のサイトを参考にしてください。
令和3年度補正予算「デジタルツール等を活用した海外需要拡大事業費補助金」
越境EC等利活用促進事業
ジェトロが展開するジャパン・モール(JAPAN MALL)を介し、中小企業の商品販路開拓を支援する取り組みです。ジェトロが中小企業から海外展開したい商品を集い、連携するECサイトが選定・買い取りを行い海外販売を実現するものです。
対象となる主な品目は食品、化粧品、酒類、日用雑貨です。募集期間の制限はなく、通年で応募できます。
海外販売の実現まで無料で支援を受けられるのがポイントです。連携するECサイトの多くが日本国内に調達拠点があるため、日本国内の取引で完了します。自社が直接海外に発送する必要がないため、海外への輸出の手続きや輸送時の商品の破損のリスクがありません。
補助金の受領ではなく販路の提供のため申し込みが簡易です。一方で、販路がジェトロ連携先に限られるため、現地法人を設立して独自で販路を開拓する場合や、海外企業と連携したい場合は本支援の対象外となります。
JAPAN MALLについては以下のサイトを参考にしてください。
JAPAN MALL(JETRO)
補助金・助成金の選び方
補助金や助成金は自発的に探さなければいけないため、どこから探して、どのような基準で選べば良いかわからない場合があると思います。
自社が海外進出する際に必要なこと、課題になることを明確にしてみます。たとえばブランディングやローカライズが課題である場合は、その支援に関する制度を探してみます。そして海外進出に必要な資金や期間を計画し、補助金額や事業期間が求めているものに近い案件があれば応募を検討してみましょう。これまで紹介した制度の募集時期に向けて準備するか、その他の募集案件を探す場合は、以下のHPで「海外」のキーワードを入れて探す方法あります。
検索エンジンのトップページの検索窓に「海外 補助金 助成金」などのキーワードを入れる方法もありますが、より手短に探す方法として既に海外展開に成功している同業者が、どのような補助金や助成金の制度を受けてきたか調べると良いでしょう。海外進出に向けた補助金・助成金申請のサポートをしている専門家に相談するのも良い方法です。
選ぶ際の注意点
補助金や助成金を選ぶ際は次の点に注意しましょう。
- 補助率、補助される費目や内容が異なる
- 申請要件を満たしているか。
補助率、補助される費目や内容が異なる。最も適したものを選定する必要がある。
補助金は、補助事業で発生した費用を全て負担してもらえるものではなく、ある一定の補助率が定められています。補助率は補助金の制度によって異なり、支援する内容も異なります。このような点に注意し、これから進めようとしている事業の内容や規模にあった制度に申請しましょう。
他の企業と連携して申請すると補助金が上乗せになるのを利用して、補助される内容が違う事業をしている他の企業を巻き込んでしまい、補助金が支払われなかったというケースがあります。補助金を上乗せするために社員の一人を独立開業させるのも本末転倒です。補助金が下りなかった場合は、つなぎ融資の返済もできなくなるので、本来計画している事業体系、事業計画の課題に対応する補助金・助成金があればそれを利用するようにしましょう。
申請要件を満たしているか
補助金や助成金は募集要項に下記の申請要件が明記されていますので、要件を満たしているか確認した上で申請しましょう。
- 会社規模
- 会社形態
- 登記場所
- 税金未納有無
- 個別要件(売上減少、業種変更など)
会社規模は売上高や従業員数で規定されています。その他、日本に拠点を有することが条件になります。また、補助金や助成金の交付停止措置になっている場合は申請要件を満たすことができないため注意が必要です。